夕暮れ方程式。
2人用フリー台本。
男女ペア作品
語り:女
深緑のキャンバスに、すっと引かれた白線に触れる。
そこに浮かぶ文字すら、彼が生み出したと思うと愛おしくて。消さないようにそっと、その白に触れて心に抱きしめた。
男「あれ、茜?」
ガラリと開いた教室の扉に、反射的に体を後ろに引く。
女「あ、悠くん。どうしたの、こんな時間に」
男「忘れ物取りに来ただけ」
そう言って、自分の席に向かっていく彼。夕暮れに染まる教室に、見慣れないユニフォーム姿の彼がいる。それだけなのに、私の心は全力ダッシュしたみたいに早くなって、ただ机の中からノートを取り出す彼を見つめていた。
男「茜は?どうしてまだ残ってるの?」
女「わ、私!?私は…そう、この問題難しくて復習してたの」
慌てて背後の黒板を指さす。
男「ふーん」
ノートを手に黒板のほうへやって来た彼は、じっと黒板を見つめる。几帳面に書かれた彼の字と、それを見つめる彼。
男「ここ、こうしたほうがわかりやすいかな」
細長く角張った指で取った白いチョークが、しなやかに文字を紡いだ。夕焼け色に照らされるその白が、彼の頬がとてもきれいで溜息が落ちた。
女「ほんとだ、きれい…」
男「だろ?」
ぱっと振り向いた彼と目が合う。
女「あっ…。うん、ありがと、忙しいのに」
男「お、おぉ。じゃあ、部活戻るな。分からなかったら、また教えるから」
持っていたノートでぽんっと、私の肩を叩いて教室を出ていく彼。
女「部活っ…頑張ってね!」
ひらりと一つ、手を振って彼は廊下の向こうに消えた。
女「こんなの、もっと好きになっちゃう」
ぽつりと落とした私のつぶやきは、夕暮れに染まる教室に溶けて消えた。今日もまだ、この想いの解き方から抜け出せない。ねぇ、あなたと一緒に…答えを見つけてもいいですか。
夕暮れ方程式。 2021.10.02