裏舞台
一人用台本
朗読企画「W」提供作品
対になる台本:みんなの書庫(作かにみそ大将軍)
https://kanimisodajiangjunnoshuku.webnode.jp/%e8%a3%8f%e8%88%9e%e5%8f%b0/
『はい、もしもし。演劇部の台本…そうね、もうそろそろ考えなきゃだね。明日?うん、大丈夫。わかった、じゃあおやすみなさい』
(電話を切る)
「そっか、もうすぐ文化祭だもんね。部長…じゃなかった。3年生が抜けて文芸部の部員も私たち2人だけになっちゃったし、まさか演劇部のステージ用の台本を任せてもらえるなんて思わなかったな。私も副部長になったんだし、頑張らないと。どんな台本がいいかな…。高校の文化祭だし、やっぱり男女の恋愛もの?あんまり凝ってなくてわかりやすいのがいいよね。童話を現代っぽくアレンジするとか…。でも、せっかくの機会だし、文芸部のことも知ってほしいよね。文芸部の活動風景を、演劇にしてみる?例えば…明日の打ち合わせの様子とか?活動している教室に入るところから…。
『ごめんね、待った?』
…いやいや、デートじゃないんだから。何考えてるんだろう、私。大体、いつも通り部室に行くだけなんだし遅れるわけないじゃない。どうせ向こうもいつも通りよ。なんなら、ちょっと遅れてきたりして。彼、部長になったのにちょっと抜けてるんだもん。私がしっかりしなくちゃ。
…仮によ?仮にデートだったとしても、遅れるなんて待ち合わせしている人に失礼だと思わない?ドラマとか漫画だとよくあるシーンだし、"女の子はちょっと遅れていくぐらいがちょうどいい"なんて雑誌に書いてあることもあるけど、時間通りに来る子の方が好感持てるわよね。男の子は違うのかしら?もしかして、恋の物語は「ごめんね、待った?」から始まる決まりとかがあるわけ?
ま、まぁ…明日はデートじゃないんだけど。
文芸部の活動をわかりやすく魅力的に伝えるにはどうしたらいいかしら。いっそのこと、恋愛ものっぽくアレンジしてみる?放課後の部室に二人っきり…向かい合って本を読みながら、ぽつぽつと話をする二人…せっかくの文化祭なのに映えないか。やっぱり、童話をアレンジしてみるかなぁ。もう少し考えて、早めに寝ないと」
(次の日の放課後 チャイムの音)
しまった。今日に限って、手鏡を持ってくるの忘れちゃった。昨日夜更かししすぎたせいで時間がなくて、朝からセット失敗しちゃったんだよね。部室に行く前に前髪直さなきゃ。
「…よし、髪は大丈夫。あぁ遅くなっちゃった。もしかして、もう来ているかな」
小走りで部室まで向かって、扉の前で深呼吸をする。扉を開けると、彼の姿が目に入った。
「ごめんね、待った?」
あれ。もしかしてもう、物語は始まっていたのかも。
裏舞台
2024.06.03 (2024.07.26)