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2023年06月03日
※ こちらは"フリー台本"ではありません。

暗い部屋に少女が一人ぽつんと座っていた。漆黒のドレスをまとった少女の腕は闇に浮かぶほど白く際立っている。その姿はとても彼女の呼称には結びつかない。

「ご機嫌麗しゅう、女王様。本日はお招きいただきありがとうございま。」

そこに一組の男女が入ってくる。女王と呼ばれた少女はそれには目もくれず黙って座っていた。可憐な夫人はそんなことを気にも留めず、少女の前に腰を下ろす。

「どうしました、女王様。外はとてもいいお天気だというのに」

にこやかに話しかける彼女に、男はお茶を差し出す。そして少女にも同様にお茶を出し、テーブルに花を飾って彼は部屋を出た。黙ったままの少女を無視して夫人はティーカップに手を伸ばす。それを優雅な動作で飲み、細めた目で少女を観察する。少女はつまらなそうな、不服そうな目で花を見ていた。

「あなたのペットと息子はどうしたの?」

花瓶に活けられた白いバラを取り出し、少女は呟く。

「息子は家で寝ています。あの子は…知りませんわ」

かわいくない子、私には懐かないもの。夫人はそう呟いてティーカップに口をつける。

「ふーん、そうなの」

つまらなそうに呟いて彼女はティーカップを手に取った。馬鹿な子。せめて息子を連れてきていれば、私も幼子の前で母親を殺すなんてしなかったのにね…。少女の手の中のティーカップがぱりんと高い音を奏でた。


アリスと類の出て行った部屋で、トランプと対峙する。続いて燃やそうと思った二枚目のトランプは、スピードが速くて簡単には燃えなかった。何度かかすめた腕からはうっすらと血が滲んでいる。

「くそっ…たかがトランプのくせに」

ひゅっと音がしてトランプが向かってくる。間一髪でよ避けたトランプがシャツをかすめて切り裂く。さっきからそんなことの繰り返しである。

「いい加減に大人しく燃えろっての」

聞こえているのかわからないトランプにそう悪態づいて類はクッションを投げつけた。質量のあるクッションはゆっくりとトランプへと向かい、トランプは易々とそれを避けた。そしてそのままの勢いでまた類に向かってくる。類はそのトランプをしっかりと見据え、ぎりぎりのところでかわした。トランプはそのまま壁に突き刺さる。

「はい終わり」

溜め息をつき、壁に刺さったトランプに火をつける。トランプはすぐに燃え落ちて灰になった。静かになった部屋で一人息を吐く。終わった、アリスたちを迎えに行かなくては。ゆっくりとした足取りで玄関に向かう。玄関を開けたその瞬間、部屋から何かが飛び出した。それがトランプだと気づくのに、そう時間はかからなかった。反射的に走り出す。トランプは迷いなく一直線に進んでいった。その先にアリスが見える。

「アリスっ…」

振り返ったアリスの首筋をトランプがかすめる。後ろに仰け反ったアリスを真陽が受け止めた。一度宙へ舞ったトランプがもう一度戻ってきたとき、類はようやく二人の元へと辿り着いた。

「アリスは?」

「気を失ってるだけだよ」

アリスは真っ白な顔をして目を閉じていた。首筋から血が流れ、首元を紅く染めている。

「類、来るよ」

真陽が上を見上げてそう呟く。視線の方向を見るとトランプがこっちに向かっていた。ポケットからジッポライターを出し、トランプへ向ける。急降下してくるトランプを見据えて、火をつけた。炎に包まれたトランプが一瞬で燃え落ちる。後には何も残らなかった。静かになった道路に、真陽と気を失ったアリスと佇む。

「大丈夫?」

一息ついた真陽が俺に尋ねる。

「あぁ、ありがとう」

深呼吸をして頷き、アリスを抱き上げた。

「とりあえず、帰ろう」


―男が再び部屋に戻ってくると、少女は退屈そうに花をもてあそんでいた。肘をついたまま、机上の液体に花びらを濡らしていく。

「どうされたのですか?」

男は床を見つめ、無表情のまま少女に尋ねた。

「いらなかったんだもの」

少女はつまらなそうに呟いて、花びらをなぞった。白い薔薇は赤く染まっていた。薄暗い部屋の中で深紅の薔薇はぬらりと光っていた。

「ではこちら片づけますね」

そう言って男は机の上の割れたカップを片し、机の下に目を向ける。もう二度と動かない彼女をを見つめ、男は無表情でそれを片づけた。

「ねぇ、アリスはどうしてるからしら?」

少女の言葉に男は答えない。

「早くアリスに会いたいわ。私のアリス…」

早くあなたを真っ赤に染めたいわ、と少女は笑った。

to be continued…

©きぃ( 𝕏:@sp_key_ )
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