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悠先輩が引っ越すということで、今日はその片づけを手伝いにきた。
「その辺適当にまとめてくれればいいから」
そう言われて押入れの中の物を段ボールに詰める。しばらく片づけていると小さな箱がでてきた。先輩がこっちを見ていないことを確認して箱を開ける。やっぱり、箱の中身は先輩が撮った写真だった。大学で撮ったと思われる写真が多くて懐かしい。
「あ…」
何枚か写真をめくっていると、真紀先輩の写真が出てきた。少し俯いた真紀先輩が、髪を耳にかけている写真。もう一枚めくると、撮られていることに気付いた真紀先輩の照れたような微笑みがあった。写真を通して見ると、そこにある想いが透けて見える。私にそう教えてくれたのは真紀先輩だった。レンズを通して見る世界には実際に見るより強く想いがこもる。だから普段見るものより多くのものが見えるし、感情が写真に表れると。
『だから、写真を撮るときは見える世界を全力で愛してね』
真紀先輩はレンズ越しに私にそう言った。先輩に写真を撮ってと言われて、ピントを合わせているときのことだった。
もともと悠先輩は優しい写真を撮る人だった。花でも風景でも人でも、悠先輩が撮れば柔らかくて穏やかなものになった。でも、この写真は今まで見た中で一番、優しい雰囲気のものだった。…まぁわかってはいたことだけど。写真を見たことで悠先輩が真紀先輩をどれだけ大切にしていたかが改めてわかってしまった。写真の中の真紀先輩を見つめて溜め息をつく。綺麗で優しい真紀先輩。悠先輩と真紀先輩が私の知らない時間を過ごしてきたのは知っている。二人がすごく仲が良くて、お互いを信頼し合っていたことも。それでもやっぱり、こんな写真を見てしまうと、なんというかもやもやしてしまう。まぁ私が勝手に見たのがいけないんだけど。その先は普通に景色を写したものだった。悠先輩は、まだ真紀先輩を想っているのだろうか。しばらくそんな想いのまま悠先輩の写真を見ていた。
「え…?」
最後の一枚を目にして、私の手が止まる。
「楓、片付いた?…って何見てんだよ」
様子を見にやってきた悠先輩が、慌てたように私の手から写真を奪う。
「先輩。その写真…」
いつ、撮ったのだろう。そう聞きたかったけど先輩の顔が赤くなってるのを見てしまって何も言えなくなった。
「俺が自分のカメラ買って、初めて撮った写真だよ」
先輩はそっけなくそう答える。そして元あった場所へと写真をしまおうとする先輩。
「それ、欲しいです」
思い切ってそう言ってみる。
「駄目」
「…私の、写真じゃないですか」
しかも私は撮られていたことを今の今まで知らなかった。でも…せっかく綺麗に撮れてるから、欲しい。
「やだ、俺のでしょ」
そう言って笑う悠先輩にさっきまでのもやもやはもうなくなっていた。
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