- Side Maki -
慣れない環境、慣れない仕事に四苦八苦しながらも、ようやく軌道に乗ることが出来た。新しく始動するプロジェクトのメンバーに入れてもらえたこともあって、イギリスに永住することにした。今まで借りていたアパートを出て、もう少しゆっくりできる家に移り住む。持っては来たものの、まだいいと思ってそのままになっていた段ボールもこの機会に整理する。
「マキ、この子あなたのボーイフレンドかしら?」
荷物の整理を手伝ってくれていた親友で同期のシルビアがそう言ってにやりと笑った。手伝うと言ったくせに、彼女はさっき開けた段ボールの中から見つかった、私が日本にいた頃に撮った写真を見ていたのだ。
「だからボーイフレンドなんていなかったって言ってるでしょう」
そう言いながらも、脳裏にはばっちりと彼の顔が浮かんでいた。
「彼も写真を撮るのね」
シルビアの肩に手を置いて、振り返った彼女ごしに写真を覗き込む。少し曲がった光沢紙にカメラを覗き込む悠の姿が映っていた。
「彼は日本にいたときの写真部の仲間なの。親友だったのよ」
ボーイフレンドじゃないわと肩をすくめて、彼女の手から写真を取り上げる。悠が自分のカメラを手に入れたときのもの。結局、私の方が自分のカメラを手に入れたのは早かった。
「やっぱりボーイフレンドでしょう?今のあなた、カメラを持ったときと同じ表情をしてるわ」
写真を見つめたまま黙り込んだ私にシルビアが言う。
「彼とはそんなんじゃなかったの。それに、この写真を撮ったとき私と彼は同じ目でレンズを覗いていたのよ」
レンズを通すと、普段見えないことまで見えてしまう。いつもは見えない彼の表情とか、彼の視線の先に何があるのか、とか。あの子は気づいていなかったけど、悠が優しそうに見つめる先には、いつも彼女がいた。もしかしたら、悠自身も気づいていなかったのかもしれない。
「彼はいつも私のそばにいてくれたわ。とても楽しかった」
もう昔のこと。過去には戻れないから、私は悠のことを後ろ向きに振り返ったりしない。
「ほら、もう早くしないと今日中に片付かないじゃない」
ちゃんと手伝ってよねと、持っていた写真を箱に戻す。
「明日からまた仕事なんだからね。これ、向こうに運んでもらえる?」
いらないものを詰め込んだ段ボールをシルビアの前に差し出した。
「…マキ、本当に日本に戻らなくてよかったの?」
シルビアが躊躇いがちに訊いてくる。その様子に私は思わず笑い出してしまった。まるで、あの日のあの子のようで。全く、どうして私の周りにはこんなに私のことを考えてくれる人たちに恵まれているのかしら。
「私はここにいたいのよ。あなたもいるしね」
そう言ってにこりと微笑む。それに、悠の様子ならちょくちょくあの子が伝えたくれる。悠もそれなりに頑張ってるみたいで安心した。シルビアの返事を聞かずに片づけに戻る。明日からまた頑張らないと。日本にいる悠やあの子に負けられないからね。
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