お嬢様はどうしても俺に無茶振りをしたいらしい。
2人用フリー台本。 男女ペア作品
執事とお嬢様
語り:男
女「喜びなさい、執事。今日は貴方のために私が直々に制服を用意して差し上げたわよ!」
男「ありがとうございます、お嬢様。ですが…私は旦那様から支給されたこの制服に誇りを持っております故…」
女「何よ?私の言うことが聞けないの?あなた、今は私の専属執事でしょう?」
男「そうでございますが、これは貴女様に仕える為の規則ですから」
女「そんなことはどうでもいいのよ!いいからこれを着て来て頂戴!」
男「…かしこまりました」
俺は執事。このお屋敷に仕えてもう15年になる。今仕えているお嬢様は御年17歳になられる立派な淑女だが、旦那様の晩年にできた一人娘のため甘やかされに甘やかされて育っているので多少我儘気質なのは否めない。とは言え、彼女がよちよち歩きの頃から見守っているわけだ。
男「甘やかしているのは、俺も一緒か…」
なんて独り言をぼやきつつ、俺はお嬢様からもらったブラウスを着て、スカートを…。ん?スカート…?
男「おい、お嬢!制服って、これメイド服じゃありませんか!」
女「あら執事。もう気づいたのね。ふーん、かわいいじゃない」
男「気づ…そりゃあ、男の俺にスカートを支給するような素っ頓狂とは違うので」
女「ちょっとそれ、私のことかしら!?」
男「おや、気づかれましたか?」
女「まぁ、そんな悪態ついたところで…あなたが来ているのはメイド服なのだけれどね。似合うじゃない執事。できる執事は何着ても似合うわね」
男「…褒められても全く嬉しくありませんが?」
女「ねぇ写真撮ってもいい?今日はその格好で給仕して頂戴ね」
男「はっ?何をふざけたことを…。こんな格好でお屋敷の中を歩くわけにはいきませんよ」
女「大丈夫よ。今日はお父様もお母様も会合でお出かけだから、他の執事たちも出払っているわ」
男「執事たちはそうですが、このお屋敷で働いている使用人はそれだけではないのですよ!?」
というか思ったよりも計画的な犯行だった。まさか、旦那様方がいらっしゃらない日を狙ってこんな無茶ぶりを仕掛けてくるなんて。大丈夫、いけるいける、かわいいわよ。なんて誰も乗せられないようなセリフを吐きながら、紅茶を要求してくるお嬢様。仕方なく自室に用意しているお嬢様専用のティーセットを取りに行くと、途中ですれ違った料理長に哀れんだ目で見られてしまった。
男「お嬢様、本日はダージリンをご用意いたしました」
女「ありがとう、執事…じゃなくてメイド」
男「本当に、そろそろいい加減にしてくださいよ」
こちらの気も知らずに、いつもと変わらずおいしそうに紅茶を飲むお嬢様。まぁ、その満足そうな顔が見られればいいんですけどね、はい。
男「そうだ、お嬢様。せっかくお嬢様が私に素敵な制服をくださったので、私からもお返しをしようと思いまして」
女「ん?執事ったらそんなにメイド服が気に入ったの?」
男「いえ、このようなものをくださるぐらいですから…お嬢様も実は着てみたいのではないかとね、思ったのですよ」
女「は?私がメイド服なんて着たいわけっ…」
男「さすがにお洋服はプレゼントできませんが…お嬢様、少し動かないでください」
右手にティーカップ、左手にソーサを持ったお嬢様が近づく俺に抵抗できる術などあるはずもなく。
男「うん、とてもお似合いですよお嬢様」
赤面して少し震えながら、頭上にメイド用のヘッドドレスを付けたお嬢様。心なしか涙目になりかけているのもなんともたまらない。
女「ちょっと執事!」
男「ほら、お嬢様。ティーカップが震えていますよ、お嬢様は素敵なレディですから、紅茶を溢すようなことはいたしませんよね?」
女「執事!!」
男「とてもお似合いですよ、お嬢様。さて、かわいらしいメイドさんにどんなご奉仕をしていただきましょうか?」
俺のお仕えするお嬢様は御年17歳になられる立派な淑女。旦那様の晩年にできた一人娘のため甘やかされに甘やかされて育っているので多少我儘気質なのは否めない。とは言え、まだまだ子供のようなからかいがいのある可愛らしいお方で、俺はそのお嬢様の無茶ぶりにどう反撃するかを日々楽しみながらこれからもこの方にお仕えしていこうと思うのだ。
お嬢様はどうしても俺に無茶振りをしたいらしい。 2022.06.05