扉の奥の、秘密の世界。
2023年06月01日
1人用フリー台本。

「私と過ごしていたことなんて、きっとすぐ忘れてしまうわよ」
ある日彼女はぽつりと、そう呟いた。
そんなことはないと言いたかったけれど、
そう言った彼女の顔がとても優しくて僕は何も言えなかった。
あの日から、僕は随分大人になった。
彼女のことは、もうほとんど覚えていない。
けれども僕は彼女が語ってくれたたくさんの物語を今でも覚えているし、
彼女と過ごした穏やかな時間を、あの時間を胸に僕は今を歩んでいる。
目まぐるしく回る日々の中で、もうほとんど訪れることのなくなってしまった書庫。
鍵のかかったその部屋の中では今も、たくさんの物語が誰かのことを待っているのだろう。
扉の奥の、秘密の世界。 2023.06.01